聞き書き『モガ・鹿乃ちゃんの百年―カメ』

モガ鹿乃ちゃん2

「お母さんに遊んでもらった記憶が無い」。まだ鹿乃子が幼かった鹿児島にいた頃の話。役人だった正二郎の家には来客が多く、その応対で忙しかった母は子どもたちと遊ぶ時間が無かったそうだ。「だからね、いつも女中のカメが遊んでくれた。カメは器量良しじゃなかったけど、良い人でね、好きだったヨ」。カメさんは前の赴任先、高知からついてきて、家事だけではなく鹿乃子の躾もしてくれた。官舎だったが、隣家とは一つの井戸を二軒で使っていて「隣にも女中がいてネ、ツルっていう名前だった。昔はカメとかツルとか長生きするものの名前をつけたんだよ、カタカナでね。今は洒落た名前が多いけどね」。「うちのカメと隣のツルがね、よく井戸で話していた」。その二人を見て「ツルとカメが井戸端会議してる」と姉たちが笑っていた。鹿乃子は意味も分からず「ツルとカメのイドバタカイギ」と一緒に笑っていたそうだ。(大正5年頃)

年をとると同じ話を何度も何度もする。カメさんの話も何十回となく聞いていた。ところが「ツルとカメの井戸端会議」は、今回初めて聞く話だった。記憶の引き出しの奥にかくれていたのか・・・。(2013年8月23日。99歳9カ月)