聞き書き『モガ・鹿乃ちゃんの百年-選挙』

モガ鹿乃ちゃん1

 

 

 

 

今日は投票日。記憶できる時間が短くなっているので、予定は直前に伝えることにしている。「今日は選挙だけど、行く?」当然のように「行くわよ」。
着替えの間中「投票用紙は?」を何度も何度も繰り返す。さて、ステッキを持って、いざ出発。62段の階段を降り、車に乗り込む。私の車は車高があるので、脚をしっかり上げないと乗りにくいが、あえて手伝わない。シートベルトも手伝わない。さあ、行きましょう!と思ったらレバーに母のシートベルトが巻きついていた・・・もう手伝わないとダメかな・・・。

小学校に着いてポケットにいれた投票用紙を出す直前に「コレが投票用紙なの?」とじーっと眺めている。係の方が手を差し出しているのに、なかなか渡さない。そうか、これは投票用紙その物ではないと考えているんだ・・・。
記入は難なくできる。68年間応援している党があるからだ。記入をすませると「名前だけでいいの?」と何度も言い、投票箱に入れるのに未練がましく手を離さない。

鹿乃子は一般女性が参政権を得られてから、最初の一回をのぞいて地方選挙も含め、投票を欠かしたことは無い。第一回は1946年4月10日、戦後初の衆議院選挙だった。
その年の3月29日、夫と、間もなく4歳になる私とともに中国から引き揚げ、京都を経て、鎌倉七里ガ浜の姉の家に転がり込んだから、最初の投票はできなかった。

帰りの車中で「棄権したことはないの?」「ない」ときっぱり言い切った。
「投票について人に相談したことも、ない」「自分で決めることだからネ」
「小さい頃から家の中で政治のことは、皆よく話していたから、関心があった」。

投票皆勤賞をあげよう。

101歳と21日。晴れ。