聞き書き『モガ・鹿乃ちゃんの百年―受験』

モガ鹿乃ちゃん2

日本美術学校の入学試験は、学科と実技。実技は金銭花の写生とベンカだった。「ベンカ?どういう意味?」「ベンカはベンカだよ」「だからぁ、金盞花をベンカするって、どうするの?」「そういえば最近はベンカってあまり使わないねぇ」「聞いたこともない・・・」「そうか、使わないのか・・・うーん、まあデザイン化するってことかな。便利のベンに化学のカだよ」「へぇー、初めて聞いた」「そうー?」。この会話は2年前、鹿乃子が98歳の時だった。時々全く知らない言葉が出てくるので戸惑う。
具体的な対象物を意匠化、図案化、文様化することで、家紋が良い例らしい。鹿乃子は受験にでた金盞花が今でも好きになれないという。「春になると、花屋の店先に並んでいるけど、あれを買う人もいるんだねー、あたしは買わないね」。好き嫌いをほとんど言わない鹿乃子だが、よほど手こずったのか・・・。便化に苦労した甲斐あって合格した。昭和6年(1931)の春だった。