聞き書き『モガ・鹿乃ちゃんの百年―地図』

モガ鹿乃ちゃん2

鹿児島赴任が終わり、正二郎は家族を連れて東京に戻ることに。鹿乃子が小学校にあがるときだった。「カメ、お前も東京に行くか?」「行きません、東京は遠いから。上海あたりならいいけど」。鹿乃子の話が続く。「鹿児島から東京へは、たくさん乗り換えしなくちゃ行けないからね。門司に出て・・・それから・・・うーん、とにかく、カメは東京は遠いと思ったんだろうね。でも上海は船なら乗り換えなしで行けるから近いと考えたんだろうね」。妻と八人の子どもを連れ、正二郎一家は東京に戻った。鹿乃子はカメの言葉「上海あたりならいいけど」が気になっていた。「それでね、上海ってどこなんだろう?って思って地図を見た。これが目的を持って地図を見た最初だったよ」。

この話は鹿乃子から何度も聞いている。いつもは歩きながらだが、今日は散歩の途中で珈琲屋に入り、ゆっくり取材。「取材費はコーヒー代でいいよ」と言われる。これを書きながら鹿乃子のように鹿児島、東京、上海を地図で確かめてみた。直線距離で測れば東京も上海もほぼ同じ。でも鹿児島と上海の間には海しかない。カメさんの感覚は「なるほど」と思った。