聞き書き『モガ鹿乃ちゃんの百年―桑の葉』

モガ鹿乃ちゃん2

 

 

雨模様のなか、車で久しぶりに近くの「寺家ふるさと村」に出かけた。田植えも大分前におわり、田んぼの苗はしっかりとした姿になっている。鹿乃子はここの緑の中を歩くのが好きだ。
5月半ばから風邪をひき、38度前後の熱が2週間ほど続いた。ベッドにいる時間がほとんどで、散歩もできなかった。熱がひいても一日ぼーっと窓の外を猫のように眺めていることが多くなり、テレビも新聞も見なくなった。
これはまずい、とりあえず週2回通っているデ―サービスを再開してみよう、と妹たちと決める。一日一回の散歩も再開するが、歩く距離は以前より短くなっている。
それから一カ月、大正二生まれはスゴイ、蘇ってしまった!
というわけで冒頭の「久しぶりの寺家ふるさと村散歩」となった。

 
寺家ふるさと村2 2014年6月27日
車で10分ほど移動する間にザーッとひと雨降ったので、田んぼも山も緑がいきいきとして美しかった。右手にステッキ、左手は私と手をつないで歩く。
「いいねー、ここ好きなんだ。樹があんなに大きくなって、いいねー」「あたしのお父さんは山林関係の仕事をしていたから、樹はいっぱい見ていただろうけど、あたしは子どもだったから、よく分からなかったけど、今はいいなーと思うよ」。私が聞いていようといまいとラジオのように喋りながら、歩く。
車に戻る途中で大きな桑の木を鹿乃子が見つけ、「桑の葉を見ると、蚕を飼ったのを思い出すよ」「小学校4年だった、近くに近藤さんていう友達がいてね、その人は四谷第二小学校であたしは第四だった」「その人のお兄さんがたしか早稲田の学生で、面倒見が良くてね、よく可愛がってくれたよ」「その人がね、蚕をくれたから家で飼ったよ。桑の葉をやってね」「繭になって糸もとったよ、糸巻きにね」「あの頃はすごく楽しかったよ」

クワの葉と鹿乃子1 1014年6月27日

何度も何度も「あの頃は楽しかったよ」と言う。
「近藤さんとはね、学校は違ったけど、お琴で一緒だったんだ」
この後、初めて聞く名前と話がでてきて驚いた。桑の葉を見つけただけなのに、繭玉から糸を引きだすように鹿乃子の話が自然にでてくる。