聞き書き『モガ・鹿乃ちゃんの百年―可愛いね~』

モガ鹿乃ちゃん2

 

 

秋晴れのなか、鹿乃子と近所を散歩する。向うからピンクの服を着た三歳くらいの女の子がお母さんと手をつないで歩いてきた。反対側の手にはプラスティックのバナナとリンゴが詰まった透明のビニール袋を握りしめている。「コンニチハ、美味しそうねー」と私。「ウン」と恥ずかしそうに頷いてすれ違う。小さな子どもを見ると鹿乃子はいつもこう言う。「可愛いねー、アタシも昔は可愛かったよ。可愛いねーって皆に言われたよ」。
なんと答えたものか・・・。
美味しいケーキ屋さんでカボチャのムースと珈琲を頼み、窓際の席に座る。鹿乃子はガラス越しに見える人達を眺めるのが好きだ。
「見られているなんて思わないで歩いている人を見るのは面白いねー」フッフッと嬉しそうに笑い、また通行人を観察する。「あ、シオザワサンだ、フッフッ、私たちがここにいるのを知らないからネ。フッフッ」(たまたま夫が私たちに気づかずに通り過ぎた)。
こんなことが楽しいのかしら?
「鹿児島で女中のカメによく散歩に連れて行ってもらった。西郷さんの大きな銅像を見上げたのを覚えているよ。鹿児島じゃ西郷さんは偉い人だからね。小さいときのことは良く覚えているもんだよ」。

ケーキもおまけのクッキーも珈琲も残さず飲んで、ピンクの花柄のステッキをつき、傾きかけたお日様を浴びながら家に帰った。