今和次郎の「修業」

モガ鹿乃ちゃん2

 

 

鹿乃子用の小さな木製の古い机には、虫眼鏡、メモ用の紙、鉛筆、何度も読み返している読みかけの本などが置いてある。昭和44年刊行の『続 美しい老年期』を見つけた。「新しい老年生活の曙」という<座談会>(今和次郎・田中千代・杉村春三・東畑朝子)のなかで、今和次郎の言葉に惹かれた。

― 今先生のそもそものご専門は何だったのでしょうか?
― 自分でもわからんのですよ(笑)。育つのに20年、絵画に10年、農村を歩いて10年、建築に10年、衣服10年、家政学10年、哲学に10年、それで80年経ったわけです。私は絵描きの学校を出たので、いまでも道楽に絵を描いていますよ。早稲田では建築を教えていましたがこれは門前の小僧です。いまは商売もおもしろいと思って勉強しているのです。私は老人になっても、いつまでも好奇心を行使しなくちゃならんということを念願としています。たれでも好奇心は大切だといいながら、それを豊かに育てる修業をおろそかにしていると思うのです。(後略)

今和次郎著『草屋根』今和次郎著『草屋根』 (昭和21年・乾元社)

今 和次郎(こん わじろう)は、民俗学研究者。 民家、服装研究などで業績があり、「考現学」を提唱し、建築学、住居生活や意匠研究などでも活躍した。 東京美術学校出身の画家でもあった。昭和5年刊行の『考現学モデルノロヂオ』(春秋社)は鹿乃子の夫となった吉田謙吉と共著。

鹿乃子は明日、百一歳をむかえる。朝食の時の会話。
「お母さん、明日お誕生日会するからね」「あら、そう、アタシは幾つになるの?」
「幾つだと思う?」「うーん、うーん、百一歳?」パチパチパチ(拍手)「正解!」。
「長生きするのも大変だよ。いや、アタシはいいんだけどね、周りがね。転ばないように、とかネ」「自分で死ぬわけにいかないからネ。長生きするのも大変なんだヨ」。